ハルヒ劇場夏コミ編


ハルヒ長門みくる「二年五組 岡部せんせー」
キョン「2−5はハルヒだけだろ」

粗茶ですが……どうぞv
「あなたが望んだことじゃないの……」


 冬コミから帰ってきて、元日はすっかり修羅場明けのイベント疲れで寝正月のあげく、正月二日に俺は長門と初詣に行き、ハルヒと朝比奈さんの巫女装束を拝んで、さすがのハルヒもバイトでは、朝比奈さんに振り袖着せて初詣だとか騒ぎ立てずに、巫女さんにはもうなったしだ。
 もちろん大晦日に推理劇や、雪山のゲレンデで猛吹雪に遭い遭難しそうになって謎館などに出くわしたりはしていないぞ。この時系列では冬コミ参加で東京有明にいたのでな。その辺のところは、冬コミ編が詳しいので、わからない人は先にそちらを読んどいていただけると。

 その後は特に変わりばえもなく、冬休みも明けて朝比奈さんが憂鬱になったり、節分には豆巻きと恵方巻を食って、バレンタインには宝探しと……朝比奈さん(みちる)が八日後からやってきたり。
 その頃ハルヒは、不気味な沈黙の時期があったのだが、古泉も気づかないことから、まぁ世界が改変したりいきなり破滅の危機はなさそうだがな。
 さらに新たな生徒会長の登場と相成り、ハルヒに妙に絡むと思ったら、古泉たち組織の息のかかった、退屈させないための当て馬だったり、春休みにはシャミセンに宇宙からのウイルスを移して阪中の犬の治療をしたり。

 そして俺たちは晴れて二年生になって、新学期には正式な部活ではないのにハルヒの新入部員勧誘騒動と並列進行で、新たな未来人、超能力者、そして宇宙人が、よりによって俺の中学のクラスメイトの佐々木の元に結集してやがった!
 そりゃひと悶着あったが、俺は今、ハルヒの元にSOS団の仲間たちと、ここ文芸部室にいる。

 ……と、駆け足で前回からのおさらいなんぞやっていたりするのも、いろいろとこちらにも都合というものがあるわけでね。
 季節はすでに夏真っ盛り。この展開から起こる出来事といえば、決まってるだろ? その予感を考えないようにしつつ、まずは嵐の前……正確には中休みとなる、プロローグからはじめていくこととしよう。



ハルヒ「あっついわねー」
キョン「夏は暑いのがあたりまえだ」

 とは言ったものの、文芸部室を占拠状態のSOS団部室に、クーラーなどというシャレたものなど存在するはずもなく、正直言えば俺も暑い。
 こういう時は朝比奈さんを見て、少しでも涼んだ気になるのがいいね。
みくる「あ、はいはい、お茶ですね。
ちょっと待ってね」


 パタパタと部室備え付けの冷蔵庫へと向かう朝比奈さん。ちなみにメイド服は制服の衣替えに合わせてこちらも夏服となっている。
 ハルヒ曰くの、この衣装はお出かけ用だそうで。同じメイド服でも、新たなバリエーションが増えて心なしか朝比奈さんも嬉しそうだ。
 夏らしくスッキリ清楚で大変よろしい。襟元を飾る大きめリボンがポイントで、朝比奈さんのロリ萌え要素に、実にマッチしているのではないかと。ちなみに言っておくが、小説原作やアニメでこの衣装は出てこない、オリジナルを着せてあげたかったと描いてるヤツは言っているがね。
 本来は仕事着として、あまり華美なのやまして露出度が高かったりコスプレ的なのもどうかとも思うが、この蒸風呂のような部室にて仕事着などとあまり堅苦しかったり暑苦しいのはなんだし、何よりも可愛く着飾った女の子に出迎えてもらえるのは、やはりご主人さま冥利につきるじゃないか!

 うっすらと汗を浮かべて給仕に従事なさるお姿も、中々のものですよ朝比奈さん。
みくる「うふ。夏の暑いときは、
冷た〜い麦茶に限りますね」
ハルヒ「(カラン☆) ぷはーっ。
みくるちゃん、生き返ったわありがと」

 麦茶といっても、そこはお茶にはこだわる朝比奈さんだ。ちゃんと仕出しから作った本格派である。俺より先にお盆の横から手を出したハルヒは、3秒でグラスを傾けイッキして、まるでビールでも飲んだかのような口ぶりだ。
 ……まぁなんだ。ジーワジワとクマゼミの五月蝿い日本の夏も、まだまだ捨てたもんじゃないな。

ハルヒ「あーでも暑い暑い暑いっ。
なんとかならないもんかしら、この不快感」

 喉元すぎれば何とやら。さっき飲んだ麦茶などまるでなかったかのようなハルヒの喚きだ。
 今年はエルニーニョの女版ラニーニャとやらの影響で猛暑になるとか、そういえば天気予報で言ってたな。
 ところが時期外れの大型台風が何度も上陸して、七月は比較的涼しく過ごしやすかったが…それが八月に入るやうだるような極暑に体がまいっちまう。
 ま、ハイテク国日本の誇るスーパーコンピュータの緻密な予測も、長門には遠く及ぶまいがね。
 わからないことは長門に聞くのが一番だが、まさか誰も、この部室の隅っこで読書に耽る文芸少女が宇宙最強の有機アンドロイドだとは思うまい。


 さて、未来だの過去だの宇宙だの超能力だの、何か奇怪な事件が起きているわけでもない。
 夏休みに入り今日は久しぶりの登校日だが、ハルヒにとっては退屈な……しかし俺にはすでに憩いとなっているいつもの平和なSOS団の、他愛のない日常だった。
 はずが、実はもうすでにこの時には……いや、もうずっと以前から、俺たちは大きなうねりの中に巻き込まれていたんだ。何かがずっと引っかかっている……何かが。
 俺たちはこの夏、本当は何をやっていて、何をしなくてはならないのか。
 果たしてこれでよかったのだろうか…………

プロローグ


ハルヒ「さぁはじまるザマスよ」
みくる「いくでガンス」

長門「フンガー」
キョン「まともにはじめろよ……
まったく」


ハルヒ「さぁ行くわよっ!」 キョン「って、なんで俺が荷物持ちなんだっ」

 さて、いきなりこんな場所から失礼する。
 ここはどこかというと……北高の男子トイレ(個室)の中である。
 何故こんな所からかというと、下駄箱でいつか見たあのファンシーな封筒に再びお目にかかってしまったわけで。
 登校したばかりで別に用を足したかったわけでもないのだが、何故かその手のものはここで見ることになってしまっている。
 なにせあいつに見られると面倒だからな。
 さて今回の中身はと……はぁ? 朝比奈さん(大)、これはマジですか?


 そして放課後。

ハルヒ「SOS団の団員諸君っ、
今日は重大な発表があります」
キョン「重大発表?
今度は何をしでかす気だ?」
ハルヒ「じゃじゃーん!
我がSOS団は夏のコミケに
参戦することになりましたっ!!!」
みくる「えっ、またですかぁ」
ハルヒ「当たり前でしょ、
全国規模のお祭りなんだから
参加しない理由がないわっ!」


 朝比奈さんの否定的なニュアンスの言葉には大いに賛同したい。だが、別の朝比奈さんはそうでもないので困ったもんだ。
 古泉は相変わらずのさわやかスマイルで肯定の意を示し、長門も相変わらず我関せずと本に目を……じゃなくてチラシ? 珍しいな、長門が本以外の印刷物を読んでるとは。
 と思ってよく見てみると、「夏コミ締め切り情報」と表に書かれている。どうやら印刷所のチラシらしい。テーブルの上には他にも似たようなのが置いてある……。
キョン「なるほど、そういうことか」
ハルヒ「ん? 何か言った?」


キョン「いーや、独り言だ、気にするな」


 何がなるほどかというと、今朝見た可愛らしい便箋には
「コミケに参加してください」と書いてあったという訳さ。
ハルヒ「ふーん。あ、ちなみに今回は合体スペースで当選してるから。
有希のスペースとSOS団のスペースは隣同士よっ」
長門「……そう」

みくる「そ、それで、
今回はいつなんですか?」
ハルヒ「八月十九日。夏休みも後半戦だから、体力は温存しておきなさい」

キョン「温存するには、去年みたいに毎日どこかへ出かけるとかは勘弁してくれよ」
ハルヒ「まぁ考慮しといてあげるわ。
あと折角夏休みだし、
向こうで泊まって遊びたいわよね」

キョン「おいおい、また朝倉の家か。もう前日に手伝わされるのは御免だぜ」
ハルヒ「それがね、親御さんが帰国するかもしれないから、まだどうなるか分からないんですって。だからホテルや旅館になるかもね」

キョン「そうなのか、長門?」
長門「そう。状況はまだ流動的」

 むむ、珍しく即答だな。ということは、思念体かインターフェースに何かしらの事情があるんだろう。
 どちらにしろ、朝倉がコミケの度にたたき起こされて帰ってくるというのもどうかと思うし、俺の精神的均衡を保つためにもそうあってくれると有り難い。
ハルヒ「だから、バイトして
交通費と宿泊費稼ぐからね。
バイトの当てならあるから
まかせてちょうだい」
みくる「ま、またあの緑のかえるさんの
着ぐるみですかぁ……」

ハルヒ「という訳で、
これから夏休みのスケジュール会議を開くわよっ!」
キョン「会議じゃなくて、一方的な通達だろ……あ、盆は田舎に帰省するからな。
八月の前半は空けてくれよ」
ハルヒ「それじゃ、みんなでキョンの田舎へ
行きましょう。それで問題解決っ♪」
キョン「くんなっ!」

第1話
夏コミ当選!SOS団ミーティング


…………。


 まだ六月だってのに、すでに気温はうなぎのぼり。
 今からこんな状態じゃ、夏本番になったらどんだけ暑いんだ?
 梅雨入りしたというのに、お湿り程度で雨もほとんど降ってないしな。まぁじめじめと雨が降り続く天気も、それはそれでうっとうしくて嫌なのだが。

ハルヒ「あんたね、もうちょっとシャキっとしなさいよ! これから夏コミまで一直線で進むんだからっ! 〆切りは待ってはくれないの、いい!?」
キョン「窓全開の状態で、そんな怒鳴り声を撒き散らすな。近所迷惑だ」

 だがハルヒはそんな注意もまったく意に介さず、引き出しから見覚えのある肩書きが書いてある腕章を取り出し装着。
ハルヒ「以前『編集長』をやったのも、全ては来たるべきこの日のため! いよいよあたしたちの真価が試されるのよ!」


 うそつけ。
 などと今さらツッこむ奴がこの室内にいるはずもなく、さて俺はミヨキチの似顔絵を描く練習でもはじめた方がいいのかと思案していると……
ハルヒ「今回はマンガよマンガ! 可愛い萌えな女の子が表紙を飾ってたら、それは飛ぶようにオタ共に売れていくのよ」


 などとのたまいながら、どこから出したのか両手に萌え同人誌をクロスさせてアピール。
 すでに天下でも獲ったような顔ぶりだ。今日びそんなおいしいこともないと思うのだが。

ハルヒ「さあそれじゃ、公正明大に
くじ引きで何を描くか決めるわよ」
キョン「またかよ……で。
俺は『アニメ』って、
なんだこりゃ」

ハルヒ「あんた最近詳しそうだし、
ちょうどいいじゃないの」


 いや俺は全然さっぱりなんだが。どちらかと言えばこの文章考えてるヤツが適任だろう。すまんがそっちに言ってくれ。
 んで古泉は……

古泉「FC、とありますね」


 漫画や小説のパロディを指す用語らしい。
 そして朝比奈さんは…………

キョン「おいハルヒ、
『やおい』ってなんだ?」
ハルヒ「それは腐女子向け。
キョンには関係ないわ」


キョン「婦女子? 女性向けってことか?
……朝比奈さんはこれが何かわかるんですか?」
みくる「ホ、ホモの嫌いな
女子なんていませんっ!」

 は?
 今、小鳥のさえずりのようなあの可愛らしいお声で、何か聞いてはいけないお言葉が発せられたような気がするのですが……あなたまで何かに毒されましたか朝比奈さん?
 言ってしまって後の祭り、覆水盆に返らずで、お顔を真っ赤にしてうつむく仕草はまたたまりませんが……

 というかつまり……、18歳未満閲覧禁止の有害図書を作るつもりか!?

ハルヒ「もちろんそんなのは禁止。
あたりまえじゃない」
キョン「前に朝比奈さんのひんむき画像をホームページに載せようとしたヤツの台詞としてはいまいち説得力がないが、さすがにそこのところはわかってはいるようだな」

ハルヒ「それともキョン、まさかあんた……前回隠れてそんな本を買い漁ってたんじゃないでしょうね?」
キョン「まて。それは断じてない。
大体ずっとお前に連れ回されてたたろうが」
ハルヒ「ふぅ〜ん。まぁいいわ。
そうそう、有希の方は自分のサークルの原稿で忙しいだろうから、今回はパスでいいわよ」
長門「……余力があれば
手伝ってもいい」
ハルヒ「そう? 別に無理しなくてもいいけど。でもさすが有希ね!
研究に余念が無いわ。
みんなも見習うのよ!」


 いつものように本に目を落としていた長門だったが……って同人誌かよっ! ハルヒと二人して、ここをアニ研にでもするつもりか!? いや作品的にいうならSF研といったところか。
 そういや同人誌と言えば、文芸部室の長門文庫もここ一年で様変わりしているな。
 厚物が多かった本棚だったが、去年の夏以降ラノベやら同人誌やらが増えている。
 しかし、同人誌なんかを学校に置いていてもいいもんかね。生徒会長が見つけたらまた難癖つけてくるんじゃないか?

生徒会長「試験を控えているこの時期に
悠長なことだな」
キョン「うお、ほんとに来やがった……」


ハルヒ「見回りご苦労さま。日ごろからちゃんと勉強してたら、テスト前だからって特に焦る必要なんてないわよ。
それで、今日は何の用?」
生徒会長「キミたちがまた何か企んで
動いていると聞いてね。
夏休みにコミケなどという
いかがわしい漫画のイベントに
参加するそうじゃないか」
ハルヒ「別にいかがわしくなんてないわよ。
そもそも日本には江戸時代に浮世絵文化があって、マンガはその流れを受けた一つの文化として国も注目し始めてるし、経済的にも産業として世界にアピールしようって時代なのよ。そしてコミケは諸外国からは憧れの聖地として崇拝されてるイベントなの!
ひと昔前の一部キモオタたちの篭った閉鎖活動とは違うの。そんなことも知らないの?」
生徒会長「私は、キミたちが参加することに対して意見を述べにきたのだ。だいたい誰か成人者がいないと参加はできないのではないかね?」

ハルヒ「義務教育が終わってれば参加資格があるって申込書にあるから問題無いわ。なんなら見てみる?」
生徒会長「ふん。ルールを守っているなら咎めはせんよ。向こうで警察沙汰にでもなったりしたら話は別だがな。君たちの学生生活自体が危うくならないよう行動には充分注意したまえ。今回は以上だ」

喜緑「(ペコリ)」

 ごまんと難癖つけて退場する生徒会長のその後ろには書記の喜緑さんが控えていたが、今回は一言も喋らず軽く会釈だけして去っていった。
 ふう、小言を言いにきただけか。棚に入ってる同人誌が見つかったらと考えるとヒヤヒヤもんだったぜ。
 長門、これはまずいからそのうち持って帰っとけ。

ハルヒ「まったく、いちいちうるさいわね
あの男も。漫研やコンピ研だって似たようなもんでしょうが」
みくる「あっ。そういえば鶴屋さんから
これを預かってきたんですけど……」

ハルヒ「何、この紙袋?
……すごいわ鶴屋さんっ、
もう原稿上げてくれたのね!」
キョン「早! って、
また鶴屋さんまで巻き込んだのか?」
みくる「ご、ごめんなさい。
夏休みの予定を聞かれて
コミケの事を話したんだけど、
そうしたら鶴屋さんも協力するって……」
ハルヒ「なんて面白いの!この漫画……
ああもう本っ当に
この主人公みたいになれないかしら」





 などと、漫画の登場人物に思い入れしまくりながらハルヒはページをめくっている。
 横から内容を見てみると……エイリアンと、ねこ耳ロボットと、エスパー少年をシモベに従えた不思議少女の微妙に非日常な、って、これはもしかせんでもどこぞの団のパロディだよな……
 ちなみに鶴屋さんは『四コママンガ』らしい。

みくる「あああのあのつつ鶴屋さんには……」

 ああ、この漫画のことですか? でしたらご心配には及びませんよ朝比奈さん。鶴屋さんは、実のところはきっと何もご存知ないでしょうし……何ひとつ聞かないで、あなたのことを見守って下さっているのですから。

ハルヒ「いい? 正式団員として、あんたたちはこれ以上のものを目指すのよ!
あとね、原稿以外に別荘も提供してくれるって! これでバッチリね。SOS団の進路を妨害する障害はほぼ無くなったわ!!」


 ……ところで今気がついたんだが、俺や古泉が『やおい』を引いてたら、やっぱ描かなきゃならんかったのか?

第2話
同人誌★一直線

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